2025年に開催された大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、世界各国の多種多様な建築が集まりました。
木材や自然素材を活かした建築は、人と環境の共存という新しい価値を示し、来場者の関心を集めました。
大阪・関西万博における木の建築をテーマに、これからの住まいと人との関係性についてご紹介します。
●万博が伝えた「いのち」の価値
2025年の大阪万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもと、3つのサブテーマが掲げられました。
「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」という視点は、これからの住まいづくりにも通じる大切な考え方です。
それでは、それぞれのテーマが建築にどのように表現されていたかをご紹介します。
・いのちを救う:Saving Lives
このテーマは、災害の備えや環境との共生、感染症対策など「いのちを守ること」に重点を置いています。
会場では避難しやすい動線の確保や、災害時にも安心できる設計が随所に見られました。
安全で衛生的な空間づくりへの配慮は、住まいにおいても大切な視点といえるでしょう。
・いのちに力を与える:Empowering Lives
心身ともに健やかに暮らせるよう、生活の質を高める工夫を表したテーマです。
万博では、開放感のあるデザインや木の温もりを感じる空間が多く見られました。
心地よさとともに活力を与えてくれるような光や風を取り込む設計は、住まいづくりにも生かせる考え方です。
・いのちをつなぐ:Connecting Lives
人と人、人と地域がつながり、豊かなコミュニティを育むことに焦点を当てたテーマです。
再利用可能な素材や地産地消、地域資源の活用などのつながりを意識した建築が多く見られました。
こうした視点は、地域に根ざした住まいにも通じます。
大阪万博のテーマから見えてきたのは、安心して暮らせる家、心地よく過ごせる空間、そして人とのつながりを育む住まいのあり方です。
これからの住まいづくりでは、こうした価値観が一層重視されていくことでしょう。
●大屋根リングが示した建築の未来
万博会場の象徴「大屋根リング」は、自然と人・文化をつなぐ空間として注目を集めました。
世界的な建築家である藤本壮介氏が設計したこのリングは、素材の選定から構造、設計思想まで、未来の建築が目指すべき方向を示していました。
大屋根リングの特徴と建築の未来についてご紹介します。
・日本の伝統とつながる素材と工法
大屋根リングには、約7割がスギやヒノキなどの国産材、3割は輸入材が使われました。
構造には、日本の神社仏閣にも使われる「貫工法」という伝統的な木造技術が採用されています。
この古来の技法と現代的な建築技術を融合させることで、木の温もりを感じられるデザインと高い耐震性能を両立しました。
・人々が集まり一つの空間を形づくる
藤本氏は人々の行動や時間の流れで完成する空間を提案しました。
大屋根リングは会場を巡るメインルートで、屋根が日陰を生み出し快適さを保ちます。
内側には各国パビリオンが並び、人々が集うことで未来へのつながりを象徴しました。
・遺産として未来へ受け継ぐ
大屋根リングは2025年3月に「最大の木造建築物」としてギネス記録に認定されました。
当初は閉幕後に解体予定でしたが、大阪府と市は10月20日に方針を見直し、北東側約200メートルを保存し市営公園として整備することを決定。
象徴的な建築を未来へ受け継ぐ意義が評価され、次の世代へとつながることになりました。
大屋根リングは自然と人の共生や人が主役となる空間づくりを体現し、建築が次世代へ受け継がれる意義を改めて感じさせてくれました。
●木の建築から読み解く各国の表現
万博の会場では、各国が独自の文化や技術を建築に表現する中で、木材をはじめとした自然素材を活かした取り組みが随所に見られました。
各国の特徴的なパビリオンを紹介します。
<伝統と現代技術の融合>
・アイルランドパビリオン
古代のモチーフ「トリスケル」をシンボルに掲げたアイルランドパビリオンでは、アイルランド産のダグラスファー材を外装に使用し、日本の吉野産スギやオーク材も取り入れています。
曲線を生かした造形は大屋根リングと呼応し、高い施工精度と職人技が光る建築でした。
文化的な意匠と素材が調和した設計からは、日欧の建築文化のつながりが感じられます。
・オーストリアパビリオン
音楽をテーマにしたオーストリアパビリオンは、木材による螺旋構造が特徴です。
内壁には「歓喜の歌」の五線譜が描かれ、ヨーロッパ産の木材が随所に使われています。
木製スラットはビスで固定され、解体や再利用が可能な構造となっており、構法と意匠が美しく調和した造形が素材の魅力を際立たせていました。
・日本パビリオン
「いのちと、いのちの、あいだに」をテーマにした日本パビリオンは、CLT(直交集成板)による木の円環が象徴的な建築です。
木の温もりと柔らかな光が調和する空間は、自然との共生や調和を大切にしてきた日本の文化や美意識を体現しています。
落ち着きと品格を感じさせる佇まいで、木材の循環と日本的な精神性を見事に融合させた設計といえます。
<文化をかたちにする建築>
・中国パビリオン
「竹巻物」をコンセプトにした中国パビリオンは、竹構造にポリカーボネートと膜天井を組み合わせた設計です。
生活や芸術に根づく竹や、文字文化を象徴する漢字など、中国の伝統美が随所に表れています。
自然光を巧みに取り入れた空間は自然と調和して生きる思想を映し出し、環境性能と文化的表現を見事に両立していました。
・ポーランドパビリオン
螺旋状に組み上げられた木の外壁が印象的なポーランドパビリオンは、日本の木工技術を取り入れた高精度な木組み構造が特徴です。
伝統的な木造文化と現代デザインが融合し、東西の職人技と文化交流を象徴しています。
構造から外装、断熱に至るまで木材を用い、環境への配慮と意匠性を両立。
曲面構造の安定性や柔軟性など、文化と技術の調和を感じさせる建築です。
・バーレーンパビリオン
「ダウ船」をモチーフにしたバーレーンパビリオンは、約3,000本の未加工の木材を複雑な木組みで構成しています。
航海文化を象徴するデザインで格子状の構造が自然換気を促し、通風と軽やかさを生み出しています。
金物を使わない構法や再利用の工夫など、自然と共存する中東の知恵が息づく設計で木の特性を生かした柔軟で美しい建築が印象的でした。
<持続可能性と構法の工夫>
・シグネイチャーパビリオン
会場の中心に位置するシグネイチャーパビリオンでは、再利用を前提とした木造フレーム構造が採用されています。
モジュール化された設計により施工効率が高く、再生可能な木材を活かすことで、資源循環を意識した建築のあり方を示していました。
仮設建築にとどまらず、住まいや公共施設にも応用できる柔軟な設計思想が感じられます。
・アラブ首長国連邦パビリオン
アラブ首長国連邦パビリオンは、伝統建築「アリーシュ」の技法を現代的に再解釈した設計が特徴です。
約16メートルの柱にはナツメヤシ農業の廃材が再利用され、林立する柱の構成によって通風や日除けを生み出す環境調整が行われています。
植物素材と構造の工夫が融合し、高温地域における自然素材の活用法としても注目される建築でした。
・ドイツパビリオン
「循環経済」をテーマに掲げたドイツパビリオンは、建築・展示・景観が一体となった持続可能な設計が特徴です。
構造にはマツ材や竹を使用し、梁は解体後の再利用を前提とした寸法で設計されています。
プレハブパネルや真壁工法に似た手法を組み合わせることで、伝統と最新技術の融合を実現していました。
・ウズベキスタンパビリオン
伝統建築の意匠を取り入れながら、木材を組み合わせたモジュール構造を採用しています。
日本産の杉丸太をはじめ、粘土やレンガなどの自然素材が使用され、金物を使わない木組みにより将来的な再構築にも対応しています。
木構造の魅力と地域性を生かした設計が印象的でした。
万博の各国パビリオンに見られた木の建築には、それぞれの文化的背景や技術的な工夫が色濃く表れていました。
自然素材の活用や伝統技術の現代的な応用、そして循環を意識した構法など住宅建築にも生かせる多くのヒントが詰まっていました。
●万博のその先 木とともに暮らす未来へ
大阪万博では自然素材を活かした建築が多く、人と環境、地域のつながりを感じさせました。
使用木材の多くは閉幕後、教育施設や公共建築へリユースされる予定です。
素材を捨てずに未来へつなぐ姿勢には、持続可能な住まいづくりのヒントがあります。
万博が示した「自然と人の共生」や「素材を生かす工夫」は、これからの家づくりにも欠かせない視点です。
私たち竹内工務店も、人と自然がともに暮らす未来を見据え、心地よい住まいを提案していきます。
最終更新日:2025年11月7日投稿日:2025年11月7日