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パッシブハウスとは

省エネ性能で注目される住宅形式には、パッシブハウスと次世代省エネ住宅があります。
どちらも高断熱や自然エネルギー利用などの先進的な省エネ技術を取り入れていますが、設計思想や特徴には違いがあることをご存じでしょうか。

ここでは、「パッシブハウス」と「次世代省エネ住宅」の違いについて、それぞれのメリットとデメリットなどを紹介します。

●パッシブハウスとは

パッシブハウスとは、太陽熱や室内機器からの排熱などを利用することで、外部からのエネルギーをほぼ必要としない住宅のことです。

<パッシブハウスの代表的な特徴>

・高断熱・高気密で熱のロスを防ぐ
・南面に大きな窓を設計して、日光を効率的に取り入れる
・熱交換換気システムで熱を回収する
・太陽熱利用や地中熱利用などの自然エネルギーを活用する

これらの技術を採用することで、パッシブハウスでは暖房や冷房に必要なエネルギーを大幅に削減しています。
夏には日陰と通風で涼しくなり、冬には日光と断熱材で暖かく過ごせるのです。
パッシブハウスは、省エネと環境負荷の軽減を実現した先進的な住宅デザインが特徴的です。
日本の気候にも適合できるため、エコ住宅として注目されています。

●次世代省エネとパッシブハウスの違い

ここでは次世代省エネ住宅とパッシブハウスのメリットとデメリットを比較して紹介します。

<次世代省エネ住宅のメリット>

・省エネ基準をクリアすればよく、設計の自由度が高い
次世代省エネ住宅は国の定める省エネ基準を満たせばよいため、建築設計における自由度が高いというメリットがあります。
パッシブハウスのように南に大きな窓や高断熱仕様が不要なため、デザイン性や内装の自由度が高くなります。
開口部の位置や大きさを自由に設定できるため、計画に制限が少ないといったメリットがあるのです。
そのため住宅メーカーとしては、独自の省エネ技術を取り入れながらも、消費者のデザイン需要に応えやすいような住宅設計ができるのです。

・パッシブハウスほどの値段がかからない
次世代省エネ住宅は、省エネ基準適合のための断熱材や設備を採用すればよく、パッシブハウスほどの高コストにはなりません。
パッシブハウスでは高性能な断熱材の採用や大規模なガラス面積が必須となることから、建設コストが高くなりがちです。
次世代省エネ住宅は、合理的な省エネ改修により初期建設費用が高くなるのを抑えられます。
そのため施主にとっては経済的なメリットが大きい住宅といえるでしょう。

<次世代省エネ住宅のデメリット>

・省エネ性能がパッシブハウスほど高くない
次世代省エネ住宅は省エネ法の基準を最低限でも満たせばよいため、省エネ性能そのものについてはパッシブハウスほど高く設定されていないというデメリットがあります。
パッシブハウスが極限までの省エネを追求するのに比べると、次世代省エネ住宅はあくまでも基準をクリアすることが目的です。
そのため冷暖房に必要なエネルギー消費量はパッシブハウスよりも高くなりがちです。
光熱費の削減効果はパッシブハウスよりも低くなるため、ランニングコストが高くなってしまうのです。

・省エネ基準を満たせばよいため、性能差が生じやすい
次世代省エネ住宅は省エネ基準を満たすことが目的のため、設計や施工の違いによっては、住宅の省エネ性能に幅が出てしまうかもしれません。
基準をわずかにクリアするという住宅もあれば、基準を大きく上回るような高性能住宅もあるなど、性能にバラツキが生じやすいのです。
パッシブハウスのように一定の高水準の性能を保証するのは難しい点がデメリットといえるでしょう。

<パッシブハウスのメリット>

・非常に高い省エネ性能を実現できる
パッシブハウスは、高断熱・高気密などの省エネ性能を徹底的に追求した住宅設計のため、極めて高い省エネ性能を実現できます。
南面にある大きな窓と高性能断熱材の採用により、冷暖房エネルギーの消費をゼロに近づけることを目指しています。
夏場の冷房負荷を下げつつ、冬場の日射取得に優れているため、年間を通じての省エネ効果は非常に高い水準にあるのです。

・光熱費の大幅な削減が可能
高い省エネ性能によって、パッシブハウスでは光熱費の大幅削減を実現できます。
冷暖房や給湯に必要なエネルギーを、なるべく自然のエネルギーでまかなおうとするのです。
そのため、排出されるCO2が極めて少なくなり、ランニングコストは非常に低く抑えられます。
数万円台まで光熱費が下がる場合もあるなど、経済的メリットは大きいといえるでしょう。

・環境負荷が非常に低い
パッシブハウスが消費するエネルギー量は非常に少ないため、CO2排出量も非常に少なくなり、環境負荷については最大限に考慮された住宅といえます。
地球環境保全の観点から考えてみると、パッシブハウスは非常にエコな住宅といえるのではないでしょうか。

<パッシブハウスのデメリット>

・南面の大きな窓や高断熱化などの設計が必須で、自由度が低い
パッシブハウスでは、南面への大きな窓の確保や、高性能な断熱材の使用などが基本的には必要です。
このような条件を満たすためには、方角や建物の形状にどうしても制限が出てきます。
デザインの自由度が制限されてしまうため、施主のデザイン志向とは一致しない恐れもあるのです。

・コストが高くなり、初期費用が大きい
大きな窓や高性能な断熱材の採用には、多額の初期費用が必要です。
省エネ性能を保つためには高度な気密性能が求められるため、設計を修正する費用も高くなりがちです。
パッシブハウスの建設には通常の住宅と比べて高い初期投資が必要となる点に注意しましょう。

次世代省エネ住宅とパッシブハウスは、どちらも省エネ性能に優れた住宅です。
しかしそれぞれにメリットとデメリットがあるため、用途や予算に合わせて選択することが大切です。

●ZEH・ZEBとパッシブハウス

地球温暖化を防ぐためには、住宅やビルなどから出るCO2の量を減らさなければなりません。
そのために使われているのが、ZEHやZEBという評価基準です。
ここからはZEHやZEBとパッシブハウスとの関係について紹介します。

・ZEHとは
「ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)」とは、住宅における年間のエネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した住宅です。
わかりやすくいうと、一年間で家の中で使うエネルギーの総量が、その家で待機エネルギーの総量と同じくらいになる家のことです。
イメージとしては自給自足ができる一般住宅です。

・ZEBとは
「ZEB(ネットゼロエネルギービル)」は、建物全体における年間のエネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した建物です。
ZEHの概念を建物全体に広げたもので、年間のエネルギー収支がゼロになることを目指しています。
イメージとしては大きなビルやマンションなど設備やシステムの規模が大きくなる場合に使われています。

・パッシブハウスで目指せること
パッシブハウスは厚い断熱材を使ったり、太陽の光をうまく取り入れたりすることにより、冷暖房に必要なエネルギーを非常に少なくします。
パッシブハウスの考え方や技術を取り入れた高断熱・高気密な住宅であれば、ZEHやZEBの基準をクリアしやすくなるのです。

●これからの日本のパッシブハウス

パッシブハウスは、寒冷な気候条件にあるドイツを発祥の地とする省エネ住宅です。
しかし、温暖な日本の気候にそのまま当てはめることは難しく、日本ならではの課題が存在するのです。

たとえば日本の高温多湿な気候では、過剰な冷房負荷が生じないように、通風や遮熱に配慮した設計が必要不可欠です。
また、台風や地震などの自然災害に対する安全性も確保しなければなりません。
さらには停電にも強いような自立分散型のエネルギーシステムを併用することも大切です。

日本のパッシブハウスには、こうした日本の気候や環境条件に適応したような改良型のパッシブハウスが求められています。
省エネと災害対策を兼ね備えているような改良型のパッシブハウスは、きっと多くの日本人に受け入れられるようになることでしょう。
発祥地であるドイツにはないような気候適応と防災機能の向上を目指すようにすると、日本におけるパッシブハウスの普及に貢献するのではないでしょうか。

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