建築が町並をつくる

建築が町並をつくる

建築と町並 蔵の建築群(川越)

今住んでいる町はどんなところですか。
町の様子をイメージしてみると、豊かな自然や観光名所、市街地など地域ならではの風景が浮かんでくるでしょう。
町並は元来ある自然地形と人の手によってつくられた建物、工作物で構成されています。
特に建物は町並を構成する重要な要素です。
川越の町並みを代表する建物は蔵の建築群です。
小江戸とも呼ばれる川越には、重厚な蔵造りの建物が並んでいます。
現存している蔵は明治時代に建てられたもので数は三十数棟ほどです。
川越に蔵が多く建てられた経緯は江戸文化の流行と大火と言われています。
明治時代初期に現在の東京である江戸で大火があり、防火のために蔵が多く建てられました。
川越でも町の3割を焼き尽くすほどの大火事があり、甚大な被害を受けました。
当時、川越の大沢家の店蔵が消失を免れたことから蔵が注目され、商家を中心に続々と蔵が建てられるようになります。
川越の蔵は江戸の建築様式と異なり、土倉造りで屋根には鬼瓦が用いられ、壁は黒漆喰です。
蔵の建築群は当時の建物を修復しながら残されています。
資料館や小売店として活用され、一般の方でも買い物や見学を楽しめます。
重要文化財に指定されている建物が多く、川越の蔵の建築群は重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。

建築と町並 倉庫群(舞鶴、函館、酒田、伏見)

続いて倉庫群の町並がある地域も見てみましょう。
京都府舞鶴市には舞鶴赤レンガ倉庫群があります。
舞鶴赤レンガ倉庫群は明治から大正時代にかけて旧日本海軍が建てた軍用の倉庫です。
重厚な西洋風の煉瓦造りをした倉庫内には兵器、軍需品が保管されていました。
倉庫は物資の搬入に適した海沿いにあります。
舞鶴赤レンガ倉庫群は全部で12棟あり、そのうち8棟が重要文化財に指定されています。
現在、倉庫群の一部は芸術・文化の交流場である舞鶴赤れんがパークとして活用されています。
北海道函館市にも赤レンガの倉庫群があります。
金森赤レンガ倉庫は、明治時代に開業した金森洋物店が貿易用の商業用倉庫を運営し始めたのが起源です。
一時函館市の倉庫業の中心的な存在として活躍しました。
倉庫業は水運の衰退とともに経営が縮小しましたが、現在の倉庫群は観光施設になっています。
運河沿いの赤レンガ倉庫は異国情緒溢れ、函館ならではの町並を形成しています。
舞鶴市と函館市の倉庫は商品の貯蔵を目的としていますが、食料品の保管先としても倉庫は活用されています。
山形県酒田市には米の保管庫として利用された山居倉庫があります。
山居倉庫は明治26年に酒井家によって建てられました。
山形県は米の名産地で交易が盛んに行われていました。
庄内平野は米どころとして今も有名です。
米は船で搬出し、米の保管場所として倉庫が活躍しました。
山居倉庫は食料保管に適した造りをしています。
収納量が非常に多く、倉庫内は涼しく低温で米を保管できます。
倉庫には天窓や換気窓を設置した二重屋根が用いられています。
倉庫の近くには船着き場、防寒用の欅並木があり、
地域性を感じさせる町並を形成しています。
京都市の伏見区にも蔵・倉庫の建築群が見られます。
伏見と言えば、水運・酒蔵の町です。
綺麗な湧き水から美味しい日本酒がつくられ、樽や瓶に詰められたお酒は酒蔵に保管されます。
伏見は歴史ある街としても有名です。
安土桃山時代に豊臣秀吉が築いた城下町として繁栄しました。
京都らしい風情ある町並は今も残っています。
当時の建物だけでなく復元されたものも中にはありますが、蔵造りの商家や土蔵、倉庫が多く見られます。

建築と町並 美しい町並は複数の建物と意匠と素材、形態でつくられる

日本各地の蔵と倉庫を例に歴史的建築群を紹介しましたが、どの地域の建物も独自の建築意匠が見られます。
建物が建てられた歴史的背景と事情はそれぞれ異なり、生活・文化と密接に関わっています。
建築素材は建物の用途に応じて使い分けられ、木材、漆喰、煉瓦など様々です。
貴重品を保管するには建物の耐久性、防火性が重視されます。
食料の保存庫は内部が涼しく、湿度を抑える工夫が施されています。
建物は町並を形成する重要な要素です。
美しい町並は素材、建築意匠を意識して造られた建物であること、そしてそれらは周辺環境との調和がとれていることが必要です。

新しい町並はつくれるか

新しく町並を創出するには地域の個性を生かすことが大切です。
これまで培われてきた歴史・文化・風土は地域によって異なります。
町並を形成するには先進的な建物を造り刷新するイメージがありますが、
むやみに町周辺の自然を開発し、既存の建造物を取り壊すべきではないでしょう。
町のイメージは景観を通じて認識されています。
景観を構成する建物は本来最低限の基準をクリアすれば、自由に設計・建築できます。
が、それだけではなく景観・周辺環境との調和を図りながら町並を形成するには、住民の高い意識とそれらを形にする人達が
同じ方向へ向けて個々の建物を吟味して計画、建築することが美しい町並を造ることになります。

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最終更新日:2020年3月4日投稿日:2019年9月24日