先日、仕事で駒沢へ行く用があり地図上で場所を探していると、目と鼻の先に向井潤吉アトリエ館があるのを見つけました。
仕事を終えた後に、早速に立ち寄り鑑賞することにしました。
草屋根の茅葺古民家を描き続けた画家の向井潤吉の名と作品は、従来より存じていたので迷うことなくそのアトリエ館へと足を運びました。
折りしも「京都と武蔵野」二つの風景という題材で、彼の地にゆかりのある絵画が飾られていました。
開催は4月1日~9月7日までです。
展示されている絵は、私の地元の渡月橋(木造の旧橋)の絵や大原の古民家、丹波の街道沿いの古民家そして武蔵野の古民家等の作品が展示されていました。
このアトリエ館を東京の駒沢で見つけたわけですが、向井潤吉の名は、数々の古民家の絵と共に私の頭の中に刷り込まれていまして、彼は関西の人だとずっと思っていましたが、学芸員の方にお聞きすると京都生まれの京都育ちですとの事、そしてまた東本願寺近くの宮大工(祖父も父も)の血筋を引く人だと聞き、又もやびっくり建物に造詣や想いが深いのもその性でもあるのかと納得をしたわけです。
向井潤吉は、京都で生まれ育ちそして洋画に興味を抱き、日本での美術の創作活動を経て渡欧し、パリのルーブル美術館での写生の日々を過ごしそして満を期して帰国し、駒沢の地で居を構え、日本画壇に登壇して、数々の授賞を受け頭角を現していました。
パリでの地道なデッサンが、その後の絵画には緻密な作風が見うけられるが、戦争をへて敗戦後に奇跡的に手元に残された「民家図集」を手にして、いつか民家を描く機会があれば、これに賭したいと言っている。
―私の民家への思慕執着は益々強まって、終生この仕事に打ち込みたいと念願している―
と彼自身が語っています。
その想いをもって、戦後の復興から高度経済成長へと進んでゆく中で日本の風景も様変わりつつあり、それらの風景の中での草屋根の民家と土地の風土や人々の暮らしや自然を絵に描くことでもって、その想いを追い続けた。
その場所は、日本全国に渡り、特に埼玉県、長野県、京都府、岩手県での制作が飛びぬけて多い。
彼の絵を見て、兜づくりの屋根や曲り家、合掌造の家等など数々の絵、そしてその歴史を今に残す集落の絵等、日本の古民家建築を居ながらにして見ることができる。
絵画と共にそのアトリエ館(従前にアトリエとして使用されていた絵具後の残る建物)の簡素な切り妻の妻入りの外観が、作者の画風を表していると思うとともに、内部に欅の太鼓に加工された存在感のある梁丸太と大きな太い棟木があります。
年代を得て、黒光りをした柱の仕口のほぞ穴等を持つこの梁丸太と棟木の丸太に見とれていますと、どうもこの古材が、素描をしていた先の東北で縁あって相談された解体される建物を購入して、ここの画室蔵で再使用したものであることが判りました。
この建物や絵画を見ると、やはり大工の血筋をもつ向井潤吉のDNAがそうさせているのではないかと思われます。
参考資料 Works of Junkichi Mukai Landscapes to be Remembered
向井潤吉 風景へのまなざし
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最終更新日:2025年6月18日投稿日:2025年6月18日