世界遺産の住宅Ⅱ

シュレッダー邸

シュレッダー邸は世界遺産に登録された建築群の中でも最も住宅らしい建物です。
設計者のヘリット・リートフェルトは家具職人として活躍し、建築物の設計にも携わっていました。
リートフェルトの代表作・家具はレッド&ブルーチェア(椅子)が特に有名です。
シュレッダー邸には当時流行のデ・ステイルのデザインがこの建物の建築設計に取り入れられています。

デ・ステイルとは20世紀初頭にオランダで行われた芸術活動です。
純粋な造形表現を追求し、垂直と水平、原色を用いた表現が積極的に取り入れられました。
新造形主義とも呼ばれます。建築や美術にその影響を残しています。絵画ではモンドリアンの幾何学模様のカラフルな絵が有名です。

1924年に建築されたシュレッダー邸はオランダのユトレヒト郊外にあります。
1・2階部分を合わせて約40坪ほどの住宅です。
シュレッダー邸の構成は垂直と水平が用いられ、配色が特徴的です。
白・黒・グレーのモノトーン色に加えて、赤・黄・青の原色を合わせた彩りは実にユニークです。
建物の内部は移動式の仕切りで区切られています。
空間を仕切ることで孤立したスペースを生み出し、仕切りを取り外すことで開放的な空間を演出できます。

シュレッダー邸はリートフェルトの仕事場としても活用されていました。
2000年にシュレッダー邸は世界遺産に登録され、現在は建物を見学することができます。

ルイス・バラガン邸

ルイス・バラガンは1902年生まれのメキシコの建築家です。
大学で水力工学を専攻しながら建築、デザインを独学で学びました。
ルイス・バラガン邸はバラガン自身のための住宅です。
この建物の外観は、通りから見るとごく普通の建物で、垂直と平面を多用したスタイルで、余計なものを一切排除したシンプルなフォルムをしています。

しかし、一歩中に入ると煩雑な通りからは別世界の静寂な空間と設えに驚かされます。
暗くて狭い玄関通路を通り抜けると吹抜けの窓から光の差し込む階段室があり、壁面にはカラフルな塗装と金色のオブジェの絵が掛けられた空間が突如あらわれます。
リビングには壁面全体を十字で仕切られたスチールのフレームとガラスが目に入りますが、
そのガラスの向こうの庭には鬱蒼とした森のような緑の木々が見受けられます。
そこには建物を隔てた外の通りのにぎわいとは別世界の静謐な空間があります。

2階の寝室の窓の内には十字の切込みがあるブラインドが付けられています。
宗教的な意味合いを建物の中に表しています。
また、簡素な佇まいのなかにも室内や外壁の一部にはピンクや金、オレンジ、黄色などのビビッドカラーが壁面一面に塗られていて非常に斬新なデザインの建物です。

バラガンの建築は色彩が特徴的です。
不似合いな色の組み合わせもバラガンの手にかかれば不思議と1つの作品としてまとまり、建物を見る人々を魅了します。
バラガンの取り入れたビビッドカラーはメキシコ大地の色というに相応しく、通りに咲くブーゲンビリアの濃いピンクや強い日差しの黄色等の色を
そして空の突き抜けるような青色をバラガンはうまく使っています。
バラガンが「光の魔術師」とも呼ばれる由縁です。
そしてこのルイス・バラガン邸は2004年に世界遺産に登録されました。

カサ・ミラ(ガウディ設計の集合住宅)

カサ・ミラは1906~1912年に建築された共同住宅で、スペインのバルセロナにあります。
設計を手掛けたのは建築家のアントニ・ガウディです。
カサ・ミラは建築当初地元の人から不評で「ペドレラ」という呼び名がつけられました。
ペドレラはカタルーニャ語で「石切場」を意味します。

カサ・ミラは133×133mの巨大な建造物で複数階で構成されています。
二階から上はカサ・カルベット、カサ・バトリロと同様に貸しアパートになっています。
三階はカサ・ミラの依頼者であるぺラ・ミラ夫妻の住まいです。
カサ・ミラの特徴はガウディならではの独創的なデザインで造られています。
建物は直線を用いず全て曲線で構成されています。
丘陵、波打つ海を思わせるようなラインは均等性がなく、階・部屋ごとにベランダの形、窓の大きさが異なります。
集合住宅でありながら部屋ごとに固有のデザインを取り入れた建築スタイルはガウディならではのこだわりです。

石造りのファサードは荒々しい壁面でゴツゴツとした岩肌のようです。
石切場の名の由来のごとく、ファサードは建築物の正面部分、主要な外観を意味します。
そのファサードには波打った外壁とロートアイアンの手摺が施されています。
建物の各室は中庭を囲むような形で燦々と光が差し込み風が通リ抜けるように設計されており、
内部は外観と異なり柔らかな色合いの天井や、緻密なデザインが美しい鍛鉄の手摺りなど細部までガウディの意匠が見受けられます。

室内も波打つ天井や照明、同じくドアや家具まで全てガウディによって有機的にデザインされたものが残っています。
屋上はタイル張りで山の積雪をイメージしています。床も平ではなく波打ったようにレベル差があります。
後排気筒として設置されている煙突と人型にみえるオブジェは実にユニークです。
屋上の吹き抜けから中庭と建物を見下ろすことができます。

カサ・ミラは建築を通じて自然そのものを体現した芸術作品です。
そのカサ・ミラには現在も借家人の数世帯の住人がいて住み続けられています。
なかなか芸術的な物として理解を得られなかったカサ・ミラですが、未だ建築中のサクラダ・ファミリア教会やグエル公園・カサ・カルベット、カサ・バトリロなどガウディの
一連の作品群をまとめて1984年に世界遺産に登録され、現在はバルセロナの中でも有数の観光名所になっています。

白川郷(茅葺きの里)建物群

白川郷は岐阜県の白川村にあります。
白川村は豪雪地帯の秘境で、独自の暮らしと建築文化が営まれてきました。

白川郷の起源は1183年頃のことです。
平維盛軍と木曾義仲軍が争い、戦いで敗れた平家が白川郷五箇山地域に移り住んで村を作りました。
白川郷は森林地帯で雪が多く、戦後まで道の整備が十分に行われませんでした。
閉鎖的な環境が幸いして独自の文化圏を保つことができ、白川郷の建物群は今も残っています。

白川郷の建物の特徴は切妻屋根の合掌造り、妻入りです。
建物が手を合わせて合掌しているような形をしていることから、合掌造りと呼ばれるようになりました。
傾斜が急な三角型の屋根は雨水が溜まらないように工夫されています。
屋根の素材は茅で、秋に採った茅を乾燥させて使用します。
茅葺き屋根は30~40年のサイクルで葺き替えが必要で、村民が助け合いながら互いの家の葺き替え作業を行います。

白川郷の建物は多層化構造で、「アマ」「ソラアマ」「タカアマ」「テンコアマ」という言葉で階数を表します。
建物は一般住宅で5階建てになることもあります。
白川郷は自然環境が厳しいことから農作物を育てるのが難しく、物品の運搬が困難であったため家内工業が発達しました。
主産業は養蚕、塩硝生産です。
多層化された階上は蚕を育てるスペースに充てられました。
養蚕業は1970年代まで営まれていましたが、現在は行われていません。

白川郷では大所帯の家族が多く、多層化した階上は家人の寝室にも利用されました。
往時をそのままに合掌造り建物群が、そして今なお住居として住まい続けられている建物がこの白川郷に残っています。
白川郷の合掌造り集落は1995年に日本で6番目の世界遺産として登録され、現在保存活動が行われています。

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最終更新日:2020年3月4日投稿日:2019年7月23日