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大工と規矩術

規矩術(きくじゅつ)は大工にとって命ともいえる技術のことです。
屋根の勾配角度や具体的な長さを求められる計算方法ですが、現在の日本においては積極的に使用する機会が減りつつあります。

規矩術は、大工としては当たり前に感じる技術です。
しかし、一般的にはあまり知られていないかもしれません。
今回は、日本で古くから使われている「規矩術」について、詳しくご紹介します。

・規矩術とは

規矩術は、日本古来から伝わる伝統的な大工専用の数学のようなものです。
数学におけるコンパスのような道具である曲尺(かねじゃく)や、直定規などを使って主に屋根を作るときに角度や長さを計算によって導く方法です。
複雑な計算方法のため、規矩術を完全に習得するためにはかなりの年月が必要です。

規矩術は、飛鳥時代に聖徳太子が仏教を伝えるときに広まったと言われています。
聖徳太子が各地に寺院を建てる際に規矩術が用いられたのでしょう。
学問としての規矩術は江戸時代に確立されたと考えられており、規矩術に関する文献も存在しています。
規矩術がなければ、法隆寺や四天王寺などの建立は不可能だったともいえます。

当時の大工は、規矩術を学ばなければ神社仏閣はもちろん、住宅さえも建てられなかったのです。

・墨付けする木材と架構

規矩術は伝統的な大工技法であり、建築物の設計にも用いられています。
伝統的な手法を持つ大工は、自らで図面を描いて材木を調達した後に材木の特徴を踏まえたうえで墨付けをし、加工や組み立てまでおこなっていました。

柱と梁で組んだ構造を架構と呼びますが、架構には規矩術による墨付け技術がとくに必要です。
数学におけるピタゴラスの定理や三角関数などの知識がなくとも、曲尺を使って規矩術を使いこなすことで作りたい形に導けるのです。

規矩術でよく用いられている曲尺は、表と裏にそれぞれ数字が書かれています。
表側にはメートル法でミリ単位の表示が、裏側には表面の数字に対して√2を掛けた数字(角目)と円周率で割った数字(丸目)の目盛りがついています。

この角目と丸目を使い分けることで、複雑な計算をせずとも瞬時に必要な場所に墨付けができるのです。
規矩術と曲尺を習得することこそが、一人前の棟梁に必要なことだったのです。

・日本の大工が持つ技術力の高さ

これまでの歴史において、日本の大工は長い年月をかけて高い技術を習得してきました。
その背景には、一般的な木造住宅の他にも神社仏閣、茶室、数奇屋造りなどの特徴的な建築物を作ることで育まれた豊富な経験値があります。

従来の伝統的な大工において、一子相伝の技として規矩術を門外不出とする棟梁もいました。
規矩術を習得するまでには長い時間がかかるからこそ、しっかりとした知識と技術を一人の弟子に熱心に教えこむことで後世へと伝えていたのでしょう。
それが、日本の大工が持つ技術力の高さに繋がっているともいえます。

伝統的な高い技術と深い知識が必要な規矩術は、このようにして現在に至るまで伝えられてきた大工の命ともいえるべき技術なのです。

・これからの大工力

規矩術について紹介してきましたが、実際のところ現在の大工が規矩術を活かす場面は少なくなってきています。
それは、ITの発展によって3D画像を使ったプログラムやモデリングなどが主流になってきているためです。

建築物に関する情報をモデリングする代表的な手法にBIMというものがあります。
従来の設計では二次元で設計をおこなってから三次元へと変化させていました。
これがBIMになると、はじめから三次元で設計してから必要な部分を二次元の図面として作成するのです。
各種ソフトとも連携しているので、平面図、断面図、立体図などさまざまな図面を作成しやすくなります。
BIMは欧米においてすでに普及している手法ですが、日本では技術者の不足などから欧米に比べると普及が遅れているといえます。

なんでもできると思われがちなIT技術ですが、理論上の寸法だけでは難しい場合もあります。
とくに複雑な形状の屋根を作るときには、昔からの伝統的な規矩術が大いに役立つことでしょう。
これからの大工は、規矩術という伝統的な技術を学びながらも、さらにBIMといった新しい手法についても勉強し続ける必要があるのです。
今後、これらの技術を駆使する新しいタイプの大工職人が出てきて、建物を建ててくれる日がくると思います。

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