自然の素材と伝統的な技法が調和する住まいづくりに近年注目が集まっています。
とくに京都市にある「北山杉」には独特の魅力があふれており、穏やかで暖かな空間を演出する高級素材としての役割も期待できます。
北山杉をとりいれた家づくりは、自然がもつ美しさとともに、伝統的な技法を用いた「和」の上質な空間になることでしょう。
このコラムでは、北山杉の特徴や歴史、北山杉が抱えている問題点などについて紹介します。
これから北山杉を活用した家づくりをしたいと考えている方はぜひ参考にしてください。
●北山杉とは
昭和41年に「京都府の木」として認定された北山杉は、平成10年には「京都府伝統工芸品」という指定を受けました。
歴史ある北山杉は、とくに京都の家づくりにとってなくてはならない素材です。
京都市北西部にある北区中川を中心とした地域では、室町時代から北山杉の生産がおこなわれています。
ここでは北山杉の代表的な特徴について紹介します。
・強度がある
北山杉の年輪は育林(手入れの)方法からも密になっており、杉材としては強度のある材質です。
北山杉の材はある程度硬さがあるため耐久性に優れており、長期にわたって使用できます。
時間が経過するごとに色艶が独特の風合いが出てくる北山杉は、長く使い続けることで魅力的な風合いが増してくることでしょう。
・強度と弾力性に優れる
北山丸太は強度と弾力性に優れており、一般的な材木と比べて1.2倍の強度と1.8倍の弾力性があると言われています。
そのため割れにくく変形しにくい丈夫な建材として使用できます。
荷重にも耐えやすく、梁材や柱材としても適しています。
・反りが少ない
北山杉は長い歴史で培われた技術により、枝打ちや密植、適度な間伐などの丁寧な対策がおこなわれています。
そのために反りが少ないまっすぐで年輪の詰まった緻密な木に育てることができ、上から下まで均一の太さをした特徴のある丸太ができるのです。
・美しい木目をしている
北山杉の見た目は、表面が白くて光沢があるという特徴をもちます。
この美しい木目は、高級感のある内装材に適しています。
また表面の美しいデザインを活かすことにより、優雅な雰囲気で落ち着いた空間を演出できることでしょう。
北山杉はこれらの特徴により、一般的には高級建材として使われています。
このようにさまざまな特徴をもつ北山杉は、幅広い場面で活用できる素材といえるでしょう。
●北山杉の磨き丸太
北山杉の皮をむいて加工して作られた製品を「北山丸太」と呼び、さらに北山杉がもつ独特の光沢を引き出すために磨いたものを「北山磨き丸太」と呼びます。
ここでは北山杉と磨き丸太の歴史や代表的な建築物などを紹介します。
・北山杉と磨き丸太の歴史
北山杉は室町時代(1394~1427年)頃から生産されていました。
千利休による「茶の湯」文化の流行にともなって、北山杉から加工して作られた北山磨き丸太は「数寄屋」と呼ばれる茶室の建築用材として頻繁に用いられていました。
およそ600年の歴史をもつ北山磨き丸太は先人達のたゆまぬ努力の結果、現在では一貫した育林と加工の技術によって培われているのです。
・北山磨き丸太の建築物
北山磨き丸太を使った建築物は多く、京都においては「桂離宮」や「修学院離宮」、「島原角屋」などが代表的です。
たとえば京都市西京区桂にある「桂離宮」は、日本庭園の傑作と言われている回遊式の庭園が特徴的です。
書院には数寄屋風をとりいれた書院造で、茶屋のある庭園も魅力的です。
また京都市左京区修学院にある「修学院離宮」は、宮内庁所轄の離宮で、桂離宮とともに王朝文化における美意識を表現しています。
そして京都市下京区にある「島原角屋」は、昭和27年に重要文化財として指定を受けた建築物です。
江戸時代における民間に大型宴会所の「揚屋建築」としての価値は高く、平成22年には角屋の庭園が「京都市指定名勝」に指定されました。
これらの北山杉を活用した建築物では、主に床柱や長押などの部分に北山磨き丸太が使われています。
又、垂木には北山杉の台杉が使用されます。
このような建築物が現代まで大切に保存されているのは、文化的な価値はもちろんのこと、
北山磨き丸太を含めた当時の建築方法を現在にまで伝えるという大切な役割があるためだといえます。
●北山杉が使われたくなった理由
北山杉から作られた丸太には「北山磨き丸太」、「北山天然出絞丸太」、「北山ちりめん絞丸太」、「北山人造絞丸太」、「北山タルキ」、「北山面皮柱」、「洛北」などのさまざまな種類があります。
これらの丸太はそれぞれの種類ごとに、これまで垂木材や床材、長押、手すり、壁板などの幅広い目的で活用されてきました。
古くから歴史のある茶室や数奇造り以外にも、さらに現在では公共施設や店舗、住宅などのさまざまな場所に用いられています。
このように北山杉は、古くから京都の建築物を支えてきました。
しかし近年では、以前に比べて北山杉を活用する需要が減少傾向にあります。
戦後には住宅建築の需要が増加した影響もあり、北山杉の生産量がピークを迎えました。
しかしその後にバブルの崩壊をきっかけにして、現在ではピーク時に比べて北山杉の市場はおよそ1/20にまで減少してしまったと言われています。
北山杉が使われなくなった理由については専門家の中でさまざまな点が指摘されています。
たとえば「和室や床の間を作る家庭が減った」ことや、「安価な海外製の木材が輸入されるようになった」ことです。
一時期に床柱一本の金額で、数十万円~一桁上の金額のものも取引されていた経過があり、北山杉イコール高級、高いというイメージが定着していました。
さらに近年ではフローリング式の洋室スタイルが好まれるようになるな和室自体が少なくなり、床の間も作られなくなってきています。
そのようなライフスタイルの変化や、和の住まいを嗜好する方が減るなどの影響もあり、北山杉は以前に比べて使われなくなっていったのです。
只、現在においてはこの北山杉が手の届く金額にまで価格が下がってきています。
●北山杉を活かす家づくり
北山杉は魅力あふれる建材ですが、需要を高めるためには素材としての北山杉に頼り切るのでは得策ではありません。
私たちのように京都に住む人々にとって、北山杉には特別な愛着があります。
しかしどこでとれた木材かというのは、あまり関係がないと考える一般の方も多いのではないでしょうか。
私たちにとって大切に感じている北山杉を、皆様にとっても大切なものだと考えていただくためには、北山林業などの北山文化をさらに知ってもらう必要があると考えています。
・丁寧で根気の良い作業と育成法
北山杉が北山丸太になるまでは約30年という長い時間が必要です。
北山杉は急斜面に密植されており、適切に管理するためには枝打ちや穂積、下草刈り、磨きなどの丁寧な作業が必要です。
1本の木から立木が何本も伸びていくという「台杉」は、歴史のある杉の育成法で、北山地域に特有のものです。
北山杉ならではの文化資源を知ってもらうことで、北山杉としての需要も高くなっていくのではないでしょうか。
・北山杉を活かす家づくりに大切なこと
北山杉は独特の風合いや質感があるため、家づくりに活用することで自然の温もりを感じられる住空間をうみだせます。
また北山杉の歴史ある伝統的な技術を現代の住宅にとりいれてみると、和の風合いのある洒落た空間になることでしょう。
とくに京都で住まい造りを考えているときに、地元でとれた北山杉を活用してみると、
地域の伝統的な産業を支えることができ、地産地消により環境への負担も少なくなります。
持続可能な社会を目指すべき私たちにとって、北山杉を活かす家づくりには、大きな意味を持つものでその影響は大きいといえるでしょう。
北山杉を活かした家づくりは自然と調和しやすく、地域の風土にあわせた佇まいが魅力的です。
北山杉をちょっとした空間にしつらえて新しい和の風合いを作ることができます。
地域の文化や歴史的な価値を保つためにも、私たち工務店はこれからも北山杉を積極的に活用していきたいと考えています。
先日、宮津の豪商の三上家に見学に行きましたが、江戸時代の建物の内部の和室のあちこちに北山杉の磨き丸太が使用されていました。
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